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四章 二節 「最後に壊すもの」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-10-21 03:35:15

「美月の信じてるものって何?」

 僕は思い切って、彼女に聞いてみた。

 彼女の素性や目的はいくら聞いても教えてくれない。一緒に住みだしてから何度も聞いているけど、さらりとかわされる。

 だから、違う方向から攻めてみようと思った。

 それに僕は信じることについて彼女の答えを聞きたかった。

 他人の信じているものを壊していく彼女が何を信じているか興味があった。

 そして、なぜそれを信じているのか知りたかった。

 僕はだんだん信じるということがわからなくなってきているのかもしれない。

「答えたくないわ」

「なんで?」

 僕はもう少し踏み込んでみた。胸が緊張でバクバクしている。

「私は、最後まで信じ切ることができなかったから」

 彼女から意外な答えが返ってきた。

 信じ切ることができなかった?

 彼女の言葉を頭の中で繰り返す。

 一体どういうことだろう。

 彼女が信じていたものって一体なんだろう。

「それより、次は何を壊すかわかるよね」

 彼女は窓から空を見ながら、話を自分の方へもっていった。

 彼女はよく窓から空を見ている。

 毎日のように降る雪を飽きることなく見ている。

 さすがの僕も、今回はわかった。

 それ以外考えられない。

「しおりとの関係性」

「正解ー」

「全然当たっても嬉しくないんだけどね」

「でもこれで最後だから、いつもみたいに付き合ってよ」

 彼女は少し申し訳なさようしている

 どうしたのだろう。彼女らしくない。

 そして、これで最後なのかと悲しくなった。

 彼女は僕が信じているものをすべて壊すと言っていた。

 それはつまり、僕にとって信じられるものはこの世に三つしかないということだから。

 他人が聞けば寂しい人生だろうか。

 僕自身、自分の人生が豊かだと思ったことはない。

「どうせ僕には決定権はないし、僕は美月を信じてるよ」

「じゃあ早速しおりさんと会う日の約束をしてくれない?」

「えっ、いつもみたいに急にいかないの?」

 僕は目を大きく開いた。

 振り回すのは彼女の得意なことだ。今回もそうするのかと思っていた。

「今回はあなたが約束することが重要なの」

「わかったよ、すぐ電話する」

「しおり、急にごめんね。今電話大丈夫? うんうん、前の人は大丈夫だよ」

 しおりはずっと心配してくれていたようだ。

 しおりの優しさが心を癒していく。

「ちょっとしおりに
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